10.2. DNA : 構造と機能
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1800年代の末には、DNAが細胞に含まれる化学物質であることが知られていたが、メンデルを初めとする初期の遺伝学者は、遺伝現象におけるDNAの役割について何も知らないまま研究を行っていた 1930年代には、ほとんどの生物学者が、実験的な研究により複雑な化学構造を持つ何らかの分子が遺伝現象の基盤となっていることを確信し、すでに遺伝子が載っていることが知られていた染色体に注目が集まった 1950年代はじめの一連の発見により、DNAこそが遺伝性物質として働いていることが科学界では周知のこととなった
当時DNAに関してかなりのことがわかっていた
すべての原子を同定し、その原子がどのように結合しているかも判明していた
不明だったのはDNAの詳細な3次元の原始の配置
遺伝的情報を保存し、複製し、次の世代へ情報を受け渡す能力をもつという特異的な性質をDNAに付与するような配置
遺伝現象における役割を説明できる分子構造の発見をめぐる競争
DNAとRNAの構造
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この例では、DNAを構成する4種類のヌクレオチド(略号A, C, T, G)による無数の配列の中の1つが示されている
ポリヌクレオチドは非常に長く、4種類のヌクレオチドはいかなる配列もとりうることから、天文学的な数の配列の組み合わせを持つポリヌクレオチド鎖が存在する 1つのヌクレオチドに含まれる糖と隣のヌクレオチドのリン酸との間の共有結合により連結 窒素原子を含む塩基が背骨のような主鎖から突き出す肋骨のように配置される 1個のヌクレオチドを詳細に調べる
その内4個が環状構造を形成し、1個が環の外に突き出している
糖の環状構造には酸素原子も含まれている
DNAの糖で、酸素原子が1個少ない
酸性のリン酸基とは対照的に、窒素を含む核酸は塩基性であることから転じて「塩基」という名称が与えられている DNAに含まれる4種類のヌクレオチドは、窒素を含む塩基の部分だけが異なっている
個々の詳細な構造よりも、塩基が大きく2つの型に分けられることのほうが重要
1環の塩基
あ大きな2環の塩基
RNAとDNAのポリヌクレオチドは2点を除き、同一の化学構造
さらにRNAにはDNAとはわずかに異なる糖(リボース)が含まれている ワトソンとクリックによる二重らせんの発見
後にワトソンが再収集した写真をもとに、ワトソンとクリックはDNAの直径が均一であると推測した
ワトソンとクリックは針金細工のモデルを用いて、フランクリンのデータとこれまでに知られていたDNAの化学的な性質の双方に合致する二重らせん構造の模索を開始した
ワトソンはモデルの外側に骨格を配置し、窒素を含む塩基が分子の内側で向き合うモデルを組んでみた
そうすることにより、ワトソンは4種類の塩基が特定の方式で対を形成することに気がついた
塩基が特定の対を形成するというアイデアより、ワトソンとクリックはDNAの謎を解くひらめきを得た
当初ワトソンは、同じ塩基同士が対を形成すると考えていた
この対合形式ではDNA分子が一定の直径を有するという事実を説明できなかった
つまり、一方のDNA鎖の2環塩基は常にもう1方の1環塩基と対合しなければならない
さらに、ワトソンとクリックは各々の塩基が形成できる対合はもっと特異的なものであることに気がついた
付属する官能基のため、特定の1種類の塩基とだけ適切な水素結合を形成することができる このことを分子生物学者は、AはTと対合し、GはCと対合すると簡略に表現する
「相補的」であるともいう
塩基対合則により、隣り合う塩基の組み合わせは限定されているが、DNA鎖の全長にわたるヌクレオチドの配列には何の制限もない
1954年4月、ワトソンとクリックはDNAの分子モデルを提唱したわずか2ページの論文をNatureに発表し、科学界に衝撃を与えた
ATとGCの塩基対合則を含む二重らせんモデルほど画期的なものは科学史の中でも数少ない
1962年にワトソンとクリックおよびウィルキンスは、この成果によりノーベル賞を受賞した
フランクリンは1958年に死去していた
1953年の論文でワトソンとクリックは提唱したDNAの構造モデルは「遺伝性物質としての複製機構を直接説明するものである」と述べている
DNAの構造そのものが複製と遺伝という生命の特異な性質を分子的に説明するもの
DNAの複製
ワトソンとクリックのDNA構造モデルは、各々のDNA鎖を鋳型としてもう1方のDNA鎖の複製が導かれることをただちに示すものであった
二重らせんの1本の鎖の塩基の配列がわかれば、塩基の対合則を適用することにより、もう1本の鎖の塩基の配列を容易に決定できる
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親DNAの2本鎖が分離し、それぞれが鋳型となって1個1個のヌクレオチドから相補的なDNA鎖を組み立てる
完成した新しいDNA分子は親のDNA分子と同一の配列を持つものであり、娘DNA分子と呼ばれる DNA複製機構の構造は単純であるが、実際の過程は複雑で1ダース以上の酵素やタンパク質の協調が必要
新たなDNA鎖のヌクレオチド間に共有結合を形成する酵素
鋳型鎖上に相補的なヌクレオチドが塩基対合すると、DNAポリメラーゼが伸長中の娘DNA鎖(ポリマー)の末端にそれを連結する
この過程は迅速で驚くほど正確
一般にDNA複製過程は1秒間に50ヌクレオチドの速度で進行し、10億塩基対に1個以下しか誤りがない
DNAポリメラーゼおよび関連のタンパク質群は、複製だけでなく損傷したDNAの修復にも関与する
DNAは環境中の有害化学物質や、X線や紫外線のような高エネルギーの電磁波によりしばしば損傷する
DNAの複製は複製起点と呼ばれる二重らせん中の特定の部位で開始する DNA鎖の複製は両方向に進行し、複製「バブル」とよばれる構造を形成する https://gyazo.com/a9c8e854645628e1c6e1e71f73950758
真核生物染色体のDNA分子には多数の複製起点が存在し、一斉にDNA複製を開始して複製過程の所要時間を短縮している
DNA複製により、多細胞生物のすべての体細胞が同一の遺伝情報を確実に保有することになる
同様に、遺伝情報が子孫に伝えられることも意味している